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福岡地方裁判所小倉支部 昭和56年(ワ)274号 判決

原告

三浦乙松

右訴訟代理人

配川寿好

臼井俊紀

中尾晴一

被告

日新信販株式会社

右代表者

信田孝一

右訴訟代理人

東富士男

東武志

主文

一、被告は原告に対し金五一万二三六九円及びこれに対する昭和五六年三月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担、その余を被告の負担とする。

四、この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「一、被告は、原告に対し、金一二一万二、三六九円及びこれに対する昭和五六年三月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言を求め、その請求原因として、

一、原告は、昭和五一年五月頃から北九州市八幡西区の明交八州タクシーの運転手として勤務しているもの、被告は、肩書地で金融業を営み、北九州市八幡西区黒崎二丁目三―二一で被告株式会社黒崎店を営んでいるものである。

二、被告は、訴外大塚忍に対し、昭和五三年一月一四日、同年五月一三日、同七月二二日に各々金五万円、昭和五四年八月二二日に金五、六五〇円をそれぞれ約定利息日歩二九銭、遅延損害金ならびに弁済期の定めなしの約定にて貸し渡し、原告は被告との間で右債務について、連帯して保証する旨約した。

三、原告は、右訴外大塚忍の被告に対する債務について、約定利息を昭和五三年二月一〇日から、昭和五五年一二月一七日にかけて別紙計算表支払金欄記載の通り支払いをなしたので、法定利息に従つて元本充当計算をすれば、昭和五五年一二月一七日現在で金二一万二、三六九円の過払いとなる。

四、しかるに、被告会社の従業員である被告杉田某は昭和五六年一月三一日午前一〇時三〇分頃、原告宅に押しかけ、応待に出た原告に対し、その再三、再四の拒否にも拘わらず、「やかましい。すぐ出てこい」「きさま、こら出てこんのか」などと罵声をはりあげ、さらに、原告に対し、突然とびかかり原告の着用していた作業着の両襟を両手でつかみ、原告の首をしめあげたまま抵抗する原告の体を約一メートル引きずる等の暴行を加え、原告を畏怖困惑せしめたものである。

五、さらに、同日午前一一時頃、被告会社黒崎店の店長藤本某は前記脅迫、暴行等によつて畏怖困惑した原告を被告会社黒崎店の事務所三階に連れ込み、杉田他二名の被告従業員と共に原告に対し、こもごも「どうするんね。今日のうちにかたをつけてもらわんとね」「あんた払いきらんなら生命保険からとつてやつてもええばい」「妹があるやろ。妹に電話して今日の午後八時までに絶対に連れてこい」「逃げたいなら逃げてみろ。どこまでもおいかけるからな」などと、怒号しながら原告の周囲を取り囲み、もつて、その頃から、同日午前一一時五〇分頃の間、原告を同室から退去することができないようにして、不法に同人を監禁したものである。

六、原告は、前記四、五項の事実発生後、八幡警察署へ連絡し、警察官に被害申告をした。

しかるに、昭和五六年二月四日午前一一時頃被告会社黒崎店の従業員二名は、原告宅に押しかけ、原告に対し、「よう、警察へ電話したもんや」「あんたが警察へ連絡するんなら、こつちも徹底的に闘うぞ」とか「目には目、歯には歯よ」等と申し向け、前記貸金の支払いをしなければ危害を加えかねない旨を暗示して原告を脅迫した。

七、以上の通りであり、このような被告会社従業員の原告に対する行為は、債権の回収方法としての手段の相当性についてその範囲を著しく逸脱した違法の行為であり、しかも被告会社の業務に関しなされたものであるから被告会社は民法七一五条に基づき、原告が、前記違法行為により受けた損害を賠償する義務がある。

八、原告が前記違法行為により受けた精神的損害に対する慰謝料は金一〇〇万円が相当である。

九、よつて、原告は、被告に対し、三項について不当利得返還請求権として、金二一万二、三六九円と四ないし六項について不法行為に基づく損害賠償債権として金一〇〇万円の合計一二一万二三六九円の支払を求めるため、本訴に及んだ、

と陳述し、被告訴訟代理人は「一、原告の請求を棄却する。二、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因第一項の事実は認める、第二項中昭和五四年八月二二日の貸金額が金五六五〇円であること、各貸借の損害金と弁済期の約定がなかつたことは否認するがその余は認める。右同日の貸金額は金五八五〇円であり、各貸借の損害金は日歩三〇銭、弁済期は三一日後の約定であつた、第四ないし第七項の事実は否認する、と述べたが、第三項の事実の認否をしない。

証拠関係〈省略〉

理由

一先ず不当利得金返還請求について検討する。

原告主張の請求原因第一項の事実及び第二項中昭和五四年八月二二日の貸金額と各貸借の損害金と弁済期の約定を除く事実は当事者間に争いがなく、右同日の貸金額は成立に争いがない甲第一号証の二二によれば金五六五〇円であることが認められ、各貸借の損害金が日歩三〇銭、弁済期が貸与三一日後であることは弁論の全趣旨によりこれを肯認することができる。

ところで原告は右各貸金の弁済として別紙計算表支払金欄記載の金額を支払つた旨主張するが、被告はこれを明らかに争わないので自白したとみなすべく、右各弁済金につき、約定利率を利息制限法所定の範囲内に引直して弁済充当すれば、同表記載のとおり、昭和五五年一二月一七日現在において金二一万二三六九円の過払いとなり、被告は原告に対し右同額の不当利得返還義務を負担していることが明らかであり、この点の原告の請求は理由がある。

二次に損害賠償請求について判断する。

〈証拠〉を総合すると、原告主張の請求原因第三ないし第六の事実を肯認することができるところ、被告会社従業員の右所為は債権の回収方法として通常あるべき程度を著しく逸脱した違法行為であると認められ、且つ右違法行為は被告会社の業務の執行につきなされたものであるから、被告は原告に対し当該違法行為により原告が被つた損害の賠償義務を負担すべきは明白である。

しかして原告が被つた精神的苦痛は、右認定に係る被告従業員の違法行為の態様と原被告間の貸借の前後の経緯を総合すれば金三〇万円をもつて相当と認める。

三してみれば、被告は原告に対し前一、二項の合計金五一万二三六九円及びこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五六年三月二七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があることとなるから、本訴請求は右の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。 (鍋山健)

計算表〈省略〉

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